生徒と先生





古典の瑞垣先生と、近所のガキだった(現生徒)門脇くん





門脇くんと瑞垣センセ








俺は、教師生活5年目にして、最大のピンチを向かえている。





そもそも、男子校なんぞに就職してしまったのが、運の尽きって言いますか、何と申しますか。


俺は大学卒業後、教師になった。
文学部に入った天才瑞垣クンは、単位取るのなんて楽勝でしたし、サボれるだけサボりまくり散々遊び回って好き勝手してました。
そうしたら、何の罰か就職活動に出遅れてしまいまして、しょうがないから私立の教員採用に希望を出していた訳です。ハイ。
まあ、運良く国語の臨採が見つかりその学校で2年間過ごしまして、次にこの男子校に来て古典の担当をしている次第ですよ。
もうこの学校に来て3年目になりますね。

何だかんだ言って、為し崩し的に教師になったけど、割とこの仕事は性に合っているような気がしている。
高校教諭ってのは意外とそんなに面倒なもんでもない、と、思っていた。


その時までは。








*









「瑞垣先生。」


聞きたくもない、野太い声に起こされる。
どうせなら綺麗な女の人に優しく揺り起こされたい。


「・・・・・・・。」

「先生、起きとるんやろ?」

「・・・・・・。」

「俊二、起きろや。」

「・・・・。」

「・・・俊、」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・寝とるんか、」

「・・・・。」

「なら、」


肩に手が置かれたのが解る。
そして、頬が何かに包まれる。
ヤバ、


「何、してるんじゃ!!」


俺は咄嗟に、門脇の腕を振り払って跳ね起きた。
危ない。
シャレにならんところだった。


「何や、やっぱり起きてたんやないですか。」

「・・・・うっさいわ、今起きたんや。」

「もう少し寝てても、ええんですよ。」


門脇は屈託なく笑いながら、そんなことをのたまう。
何やその爽やかクンな微笑みは。
そんなん隣の女子高行ってしてこいや。
女がわんさか食い付いて来るぞ、マジで。
なんたって、アノ門脇秀吾クンやしね。
ウチの妹も秀吾ちゃん、秀吾ちゃん、て、五月蝿くてしゃあない。


「お前なあ、そういうんは彼女としろや。あんなわんさか出待ち居るんやし一人ぐらいええ娘おるやろ。」

「俺は俊二が、好きなんや。言うたじゃろ、」

「・・・・・・あんな昔のことは忘れろや。」

「『俊二おにいちゃんをお嫁さんにするんや。』」

「〜〜〜〜〜〜!!」

「諦めんぞ、俺は。」


不敵な笑みとは正にこの顔だろう、というような笑顔で、門脇は俺を見てくる。
こんな顔しててええんかい、と思わされる。
さっきの爽やかクンな微笑は何処へ行ったのやら。
と言うか、いつの間にコイツはこんな顔を出来るようになったのか。
何だか、懐かしいような、感慨深いような、そんな気持ちになる。
子供の成長を見守る、親にでもなったような感じだ。
思わずため息が出る。


「若いって、ええな。」


コイツを見ていると、自分も年を取ったんだな、と、感じる。
ついつい止めていた煙草にも手が伸びる。


「ここ禁煙じゃろ、俊。」

「門脇、先生と呼べや、先生と。」

「・・・・嫌や。」

「・・・お、前なあ。解ってるか?俺は一応、お前の副担やぞ。」


窓枠に寄りかかり、銜えた煙草に火を点ける。
燻る煙を吸い込み、肺に満たす。
少し、気持ちが落ち着く。
門脇はそんな俺の動作を、ぢっ、と見つめている。
正直、真っ直ぐ過ぎる視線が痛い。


「俊二は俊二じゃ。」


門脇は、一歩づつ近づいてくる。
視線を此方に向けたまま。


「次は、逃げんのな。」


そう言う顔は、もうすっかり男の顔だ。
怖いなあ、秀吾ちゃん。














ウッカリ浮かんでしまいました。そのに。
逆でも有りなんですけどね。個人的に。
門脇てんてー。
でもその場合、俊二くんはプラトニックを貫きそうだ。

write 070405