た な ば た、 短 冊 の 唄 ☆
「巧は何て書いたんじゃ?」 「は?」 いきなりの質問に意味が理解できず、巧は眉根を寄せてそれを表す。 豪は首を傾げる。 「七夕の短冊じゃ。」 「ああ、」 「さっき青波が書きよったじゃろ?」 そう言えば家の玄関先に、折り紙などで飾られた竹があったのを思い出す。 青波が真剣に短冊に何かを書いていたのも。 正直、巧はあまり興味が無かった。 「書いてない。」 「そっか、俺は書いたで、さっき。」 「ん?」 「青波が豪ちゃんも何か書こうで、って。」 「何でウチのに書いてんだよ。」 思わず突っ込んだ巧の言葉に、ふっ、と豪が笑う。 「っ、確かに、お前が書いてないのになあ、」 「何、笑ってんだよ。」 「・・・・っ、お前真面目な顔して言うなや、」 豪はついに堪えきれなくなって、はははっ、と笑い出した。 晴れた空に笑い声が響いた。 * さあさあ、小雨が昨日から続いている。 今年の七夕は残念ながら雨模様です。 と、天気予報で言っていたが、寧ろ豪には感謝したい雨だった。 この雨のおかげで午後の巧の練習は無くなったのだから。 思わず電話の声も弾む。 『何だよ、えらく上機嫌だな。』 「まあな。」 『こっちは、練習が潰れたってのに。』 「ま、いいじゃねえか。じゃあ、午後から暇なんじゃな?」 『医学部の豪ちゃんは忙しくないんデスカ。』 「今日は珍しく暇でな。」 大学に入ってから格段に忙しくなった豪は、よっぽど時間をとらない限り、違う大学に進んだ巧とは会えなかった。 国立大の医学部に一浪し入学した豪と、私立大に特待で現役入学した名門野球部エースの巧とでは、時間の進むスピードが違っていた。 だから、会う時間というのは無理矢理捻出しなくてはならなかった。 「七夕なんじゃし、会おうや。」 『寧ろ、七夕に何で豪と会ってんだって話だよな。』 「巧〜・・・・。」 『ま、別にイイけど。』 「!」 『「いつまでも一緒に」居たいんだよな〜。豪ちゃんは。』 「・・・は?」 『今年は何て願うんだ?』 思わず携帯を持った状態で固まってしまった。 からかうような巧の声が、じゃあまたいつもの所でな、と別れを告げる。 ツーツーツーツー、通話終了の音が耳に届くが、まだ動くことができない。 巧が言った言葉は、どこかで覚えのある言葉だった。 「っ〜〜〜〜!!!」 そのまま頭を抱えてしゃがみ込む。 こっ恥ずかしい事を書いた過去の自分と、これから待ち構える現在の巧に頭が痛い。 「・・・・何で覚えてるんじゃ、」 ぽつり、呟いた言の葉は糸のように落ちる雨に吸い込まれて消える。 その雨はアスファルトに落ち、きらきらと黒光りする。 少し遅れましたが、季節モノ。 write 070708 |