最初に惚れた △ 困った恋心 △ 両手に花 △ うそつきと意気地なしと、わがまま △ 本心 「俺、瑞垣が好きじゃ。」 実際、その告白は唐突だった。 本当にあまりにもいきなりだった。 瑞垣が一瞬ほんの一瞬フリーズしてしまうのも無理がないことだった。 だから、こんな不意打ちに対処できなかったのも不可抗力だと言えるだろう。 ッチュ・・・・。 海音寺が無造作に首を傾け器用に瑞垣の唇に触れた。 ほんの一瞬ではあったけれど。 もちろん瑞垣はフリーズしたままつっ立っていた。 そして只でさえ真っ白になっていた頭が、今度は墨でも流し込まれたかのように真っ黒になった。 ついでに目の前も。 瑞垣は少し眩暈がした。 △ yes or no △ バミューダトライアングル △ それぞれの △ 誰かが傷つく ジャリ、ジャリ。 前を歩くふたりの空気が微妙に以前と違うことは知っている。 瑞垣はいつもしていたように、何気ない風を装って平然としゃべっているが、隣の門脇は明らかに普通じゃない。 何か考えているのか、瑞垣が話しかけることにも上の空だ。 しかし、いつもの瑞垣ならば小馬鹿にしたように門脇のそれを指摘するだろうに、今日の瑞垣はそんなこともせず、只その場の会話を作るだけだ。 どこかが噛み合っていない。 何かがずれている。 海音寺はこの場のちぐはぐな雰囲気にどこか居心地の悪さを感じていた。 おそらく海音寺がここで立ち止まったとしても、このふたりはそれに気付かないだろう。 そんな類の居心地の悪さ。 ふたりは今、互いのことしか意識にないのだろう。 (いや、もしかしたら自分ひとりのことだけかも知らんな。) 黙って背中を見ながら歩き続ける不安定さ。 (俺だって、ちょっとムカついたりするんじゃけどな。) そう、海音寺は柄にもなくイラついていた。 理由は自分でもわかっていた。 あさましく、稚拙な感情だ。 絶対に、他人には知られたくない。 一言しゃべっただけでも体の内からあふれ出しそうな感情を、どうにか抑えている。 だから、こうやって黙っている。 こんな自分が嫌になる。 * 隣で話している瑞垣の声が遠く、何かを隔てたような風に聞こえる。 こんなに近くにいるのにあまりよく聞き取れなかった。 こんなことなどあるのだろうか。 門脇自身の体は確かにここにあるのに、意識だけは別のところにある。 ほんの数日前に見たことが眼に、頭に、記憶に焼き付き焦げ付いていて、瞼を閉じてさえ鮮やかに思い出された。 そのことひとつが門脇の頭を占領していて他のことが手につかない。 門脇はひとつのことを考え出すと他のことが上手く出来なくなるきらいがあった。 元来、あまり器用な方ではないのだ。 (・・・・何でや。) 門脇には、何故こんなにも瑞垣が平気にしているのか理解できなかった。 (お前はあんなん大したことじゃねえのか。) 昔はあんなにも近かった幼馴染みが、今はこんなにも遠い。 ふたりの間を、深く広い埋めようもない溝が隔てていた。 気付いていなかっただけで、気付こうとしなかっただけで、初めからあったのだろうか。 ついこの前まで隣でいっしょに歩いていたと思っていたのに。 今まで自分の手を引き、答えを与えてくれた幼馴染みは、もう居ないのだということを理解したくなかった。 そう思ってしまえば、今まで大事にしていた何かが、粉々になってしまう気がして。 (俊、何で俺、見てしまったんじゃ。) 本当に教えて欲しいと思うことは絶対に口には出せないことで。 頭の中では「何で」ということばと疑問符だけが浮かんでは消え浮かんでは消えていた。 (何でこんなに痛いんじゃ。なあ、何でや、俊。) 確かに体は軋み、痛みを訴えているのに、どこが痛いのかさえわからない。 △ ファイナルアンサー △ |