蝉 と ボ ク |
「暑い。」 「そうじゃな。」 「すっげえ、暑い。」 「そうじゃな。」 「なあ、暑くねぇの?」 「暑い。」 神社の境内に逃げ込み、ひんやりとする木板の壁に、二人並んで体を預けていた。 上の方ではミンミン、ジリジリと蝉の音が耳に響く。 暑さを余計に煽っているような気がする。 「暑い。」 「巧、汗垂れよる。」 巧の額から輪郭をなぞり、一滴の汗が落ちる。 ッツ。 雫の流れは顎まで、で。 頤まで筋をつけ、流れていく。 その辺りで勢いをなくし、止まる。 汗が雫になってたまっていく。 あ、落ちそう。 そう思った瞬間に、巧が白い手首の甲で頸元をぬぐう。 そしてTシャツの肩口で汗を拭い取る。 「暑いな。」 「あぁ。」 「頭オカシクなりそうじゃ。」 実際、豪の思考は暑さの所為か、大分茹だっていた。 (巧、色、白い、) 豪の視線は専ら巧の肢体にあった。 自分と同じに外で運動をし、同じ条件の上の生活リズムを送っている筈なのだが、巧の肌は一向に黒く焼ける気配が無い。 依然として、白く、木目細かい、綺麗な肌だった。 女の子とは違う堅さを孕んだ肌が、余計に輝きを、惹き立てた。 「何?」 巧が怪訝そうな表情で豪を見る。 豪はその時初めて、自分が巧を凝視していたことに気付いた。 途端に顔に血が昇ってくるのを感じる。 white.20070321 revision.20080716 |